2009年10月6日火曜日

研究_距離減衰式

http://www.k-net.bosai.go.jp/k-net/gk/publication/2/II-3.5.html

 断層が地震波の発震源であることが知れ渡った現在、震源を点として扱うことはもはや受け入れられにくくなった。点震源はが大きかろうと小さかろうとある一点にエネルギーが集中していると考えるモデルである。したがってが大きくなるにつれて限りなく震源で大きな地震動になるものと考えるモデルである。しかしながら、が大きくなるにつれて断層面は大きくなる。例えば7クラスの1995年兵庫県南部地震では断層面の長さは約50km幅15km程度であったが、8 クラスの1983年日本海中部地震や、1968年十勝沖地震では断層長さが100kmを越え、幅も数10kmにおよぶ。すなわち地震の規模が大きくなった 場合、エネルギーが一点に集中するのではなく、広い範囲に分散すると考えてもよいだろう。もちろん自然現象であるので、その分布は不均質でギエネルーを強 く出す所、全く出さない所、様々だが、決して震源に全て集中するわけではない。ここでは断層の広がりをどう距離減衰式に反映させるか考える。広い断層面も 遠くになれば、ほとんど点と見なせる。一方、断層近傍では断層面からの最短距離で距離減衰式を表せる。

 最も単純な距離減衰式は距離の対数を横軸、振幅(例として最大加速度)の対数を縦軸に取ったとき(図3.5-1.)、右下がりに見えるので一次式を当てはめて

(3-29) 
 断層近傍では振幅の増加が頭打ちせずに限りなく大きくなる。一方、震源のエネルギーを断層線に沿って分散させれば距離が小さくなっても振幅の増加は頭打するだろう。震源域の距離で頭打するとすれば

(3-30) 
 震源域の大きさはに応じて大きくなる。したがっての関数となろう。通常、の指数関数で表現する。

ところでもう少し、物理的に距離減衰式を考えてみよう(図3.5-2)。簡単のために点震源で考察する。球面波の減衰は一様な均質媒質中では、距離に応じて減衰する幾何減衰と、波が媒質中で別のエネルギーに変換されることによって減衰する内部減衰が考えられる。幾何減衰は球面波のエネルギーが点から放射されたとき1/Rに比例して減衰する。内部減衰は一つの波線に沿って平面波と見なせるような微小領域で1サイクルごとに同じ割合で媒質にエネルギーが吸収されていくことを表す。を震源での強さ(や地震モーメントMoで表される)とすると、振幅PGA

(3-31) 
自然対数をとると

(3-32) 
常用対数に変換して

(3-33) 
と表せる。データに当てはめて、この係数を求めることが出来る。一方、振動方程式より

(3-34) 
(3-35) 
をS波速度と同等と見なして固有周期Tを決めれば得られた回帰係数からに変換できる。

さて振幅の増加と震源域の大きさの関係を考えてみよう。Aki(1967)が提案したの 震源モデルに従えば、高周波数の地震波は位相が重複しにくく、地震モーメントの1/3乗に比例して大きくなる。一方、震源域の大きさ(断層長さ、幅などの 長さ)も地震モーメントの1/3乗に比例して大きくなる。つまり、地震規模に関して、最大加速度の増加と、震源域の増加は等しいと考えられる。したがっ て、ほとんど高周波数成分で決まる最大加速度の距離減衰式では、震源域の増加を表す項と、振幅の増加を表す項の、マグニチュード係数が等しくなる。

統計的推定法のうちで断層面の広がりを考慮した他の例を紹介する。一つは小林・翠川の手法(Kobayashi and Midorikawa, 1982)と呼ばれるもので、既に重要構造物の地震動評価に多用されている。この手法は図に示すように(図3.5-3) 断層面を小領域に分割して断層近傍でも点震源と見なせる様にして、各小領域から出る各周期のインパルス応答を重ねあわせることによって、応答スペクトルを 推定しようとするものである。もう一つはエネルギーの等価則をそのまま振幅に転用したもので、等価震源距離とも呼ばれ次式で表される。

(3-36) 
 ここでi は微小領域の番号、は微小領域と観測点までの距離である。はエネルギー分布とされている(Ohno et al., 1993)。

断層までの最短距離を用いた手法、小林・翠川の手法、等価震源距離を用いた手法を比較してみよう。仮に兵庫県南部地震の断層面を一枚の均質な面と仮定し て、余震を重ねあわせて本震を計算したものと比べてみる(Fukushima et al., 1998)。ただし、地盤は余震が観測された地点と同じ構造が水平に続いているものと仮定する(図3.5-4)。

 絶対値は地盤によって異なるので分布形状を見て頂きたい。小林・翠川の手法では断層端部で位相が相関を持って重なり合う(一種のドップラー効果)ので、 破壊開始点より大きく見積もられる。余震を合成したものは破壊過程を考慮したにも関わらず、高周波数の位相では相関が低いので、断層端部で極端に大きくな ることはない。断層までの最短距離、等価震源距離を用いた手法でも断層端部で振幅は増加しない。ただし、等価震源距離では断層面全体の影響を積分してしま うので、が増加すると断層面中心付近で振幅が限りなく増加する。結論を出すには、もちろん十分なデータが必要ではあるが、Mw6.9の1995年兵庫県南部地震(震源域の最大加速度0.8G)と、それより大きいMw7.4の1999年トルコKocaeli地震の震源域(震源域の最大加速度0.3G)では最大加速度で比べてに伴う振幅増加は見られない。

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